漁業調整委員会のいい実務例です
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「オレの場所だ!」青森と岩手、
好漁場めぐり前代未聞の大バトル
11月29日18時55分配信 産経新聞 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081129-00000535-san-soci |
11月15日、青森県境から南に数キロ離れた岩手県洋野町種市の八木漁港では、
船からあふれるほどのマダラやスケソウダラが次々とトラックに積み出されていった。この日、「なべ漁場」
で操業してきた小型底はえ縄漁船が水揚げした魚は計約200匹。「(売値は)相場によるが、20万円くらい。
燃料やエサ代などを差し引いても13万円ぐらいのもうけになる」。漁船の船長(48)は満足そうだ。恵み豊かな北の海。しかし、
どこでも魚が捕れるわけではない。いくつかの条件が重なることで好漁場が生まれるが、漁師が「根」と呼ぶ、
海底の岩があらわになった岩礁群は、さまざまな種類の魚類が捕れる場所だという。そんな「根」の1つ、
タラがよく捕れることで知られているのが、青森・岩手両県境から沖合約40キロの位置にある通称「なべ漁場」だ。岩場が、
文字通りひっくり返した鍋のように2キロ四方にわたって盛り上がっていることが、名前の由来とされる。そこがなぜ、
青森と岩手の戦いの場になるのか。双方が「自分たちのもの」と主張できるようなグレーゾーンにあるからだ。国土地理院によると、
県境はあくまで地上を分けるもので、その先の海については明確な規定はない。漁業権の管理など海域がどちらに属するかを示す海境は、
当事者同士の話し合いで決めるものだという。実際、両県の関係者はこれまで何度か海域を分けるための協定を結んできた。昭和26年、
両県の漁協は双方の県担当者らの立ち会いのうえで、陸地からの県境の延長線上を操業ラインとする合意書を作成。さらに、
59年には両県の漁業者の間で、県境から真東に引いた線を境界線とする協定が結ばれた。「なべ漁場」は26年の合意書では岩手県側に入り、
59年の協定では青森県側の海域に含まれる。グレーゾーンといわれるゆえんだ。
こうしたなか、「なべ漁場」で操業していた岩手県洋野町と久慈市の漁師計11人が、青森県を相手取った訴訟を起こしたのは、
今年9月のことだった。昨年10月、岩手県側の11人の漁師が「なべ漁場」で操業していたところ、
「底はえ縄漁を禁じた青森県側の海域にあたる」として青森県の指導を受けた。今年1月には、指示を守るよう青森県知事名で命令が出された。
そこで11人は、「青森県が漁の禁止を命じるのは法的な根拠がない」として、知事の命令の取り消しを求めたのだ。漁業関係者によると、
訴訟の背景には、これまで双方が特にトラブルなく操業してきたはずの「なべ漁場」で、
急に青森県側が取り締まりを強化してきたことがあるという。一般的に、岩手県側の漁師が行っている漁法は、水平に数キロに渡って伸びた縄に、
イカやサンマの切り身つきの針をぶら下げ魚を釣る「底はえ縄漁法」。これに対し、青森県側の漁師が行っているのは、
はえ縄の縄を縦にぶら下げ漁船を走らせる「たて縄漁法」や、長さ1〜1.5キロほどの網を海中に広げて魚をすくい取る「底引き(トロール)
網漁法」だ。どちらも、底はえ縄と同じ海域で操業すると、互いに針や網が引っかかる。資源保護などの事情も含め、青森県は平成4年、
同県の海域内での底はえ縄漁をメヌケ・キチジ漁に限って禁止していた。ただ、岩手の漁師らは長年、「なべ漁場」でタラ漁を行っており、
特に問題になっていなかった。それが2、3年前から青森県の対応が変わってきたのだという。「なべに青森の船なんかほとんど来ない。
なぜ急に取り締まるのか」。洋野町の漁師の男性(50)は、こう憤る。“不可思議”な青森県の取り締まり強化−。その理由を探ってみると、
今回の騒動の本当の火ダネが見えてくる。
「なべ漁場」より、さらに北側の青森県沖。グレーゾーンを外れ、明らかに青森県の海域とされる場所には、
もっとよい漁場が多数あるとされる。「時にはなべの3倍くらいとれることがある」。原告の長坂慶三さん(67)はそう話す。
長坂さんによると、青森県側が取り締まりを強化し始める直前、完全な青森県側の海域で操業していた岩手県の漁船の底はえ縄と、
青森県の船のトロール網が引っかかりそうになるトラブルが発生。しかも岩手県側の漁船は「普通なら後ろめたくて下手に出るのに、
青森の船に対し、ケンカ腰で対応した」(長坂さん)という。この件が取り締まり強化のひとつのきっかけになった。
青森県の取り締まりを担当する県漁業管理グループの高林信雄グループリーダーは
「もめ事のある場所のパトロールを強化するのは一般的にいって自然なこと」と強調する。こうして、取り締まりを強化した青森県が「なべ漁場」
でも指導を重ねるようになった。
19年3月には、青森県が岩手県側との協議がないまま、青森県の海域での底はえ縄漁を全面禁止とする方針を打ち出した。
双方の感情的な対立が高まってきた、その年の初夏。両県の漁業者が問題を話し合うために集まった席上、青森県側が、
ある写真を岩手県側の漁業者に突き付けた。写っていたのは、「なべ漁場」のはるか北、
明らかに青森県の海域と認められる場所で岩手県側の船が操業している姿だった。交渉は決裂し、今年3月には、
青森県東部海区漁業調整委員会が「なべ漁場」を含めたグレーゾーンの海域を「青森の海域にあたる」と明示、
改めてその海域での底はえ縄漁を禁止する指示を出した。一方、岩手県は漁業者に対し、「なべ漁場は岩手の海域。臨検に応じる必要はない」
と指導。今月11日には県の執行機関「岩手海区漁業調整委員会」が、「なべ漁場」を含む海域を底はえ縄漁の操業区域とすると指示した。
これに対し、青森県は抗議文を送って取り消しを求めたが、岩手県は25日、改めて「岩手側の海域」とする意見書を送り返した。「行政」対
「漁師」だった構図は、「行政」対「行政」の泥仕合に発展している。法廷での争点は、
青森県東部海区漁業調整委員会の指示に基づいて青森県知事が出した命令の適法性だ。原告側は、「なべ漁場」
は同委員会の権限行使の管轄外▽海域に争いがある以上、両県の協議などが必要▽「なべ漁場」
が規制海域に含まれるかは指示に明示されていない−などと主張している。青森県側の主張は現在までに明らかになっていないが、
双方が真っ向から対立する構図が予想される。果たして、この種の争いに解決のための処方箋(しょほうせん)はあるのだろうか。
水産庁遠洋課の高屋繁樹課長補佐は「漁業法の制定過程に注目すべき」と指摘する。漁業法は、
明治時代に調べ上げた各地の慣習をもとに制定した法律で、江戸時代からの慣習がもとになっている。その原則は「磯は地付き、沖は入り会い」。
つまり、ウニなど沿岸で捕れる資源については地元漁師に漁業権などの優先権を与える一方、沖に出れば自由操業、というものだ。
「沖はそもそも厳格な境界線を引くのが難しい」と高屋課長補佐。解決の秘策は漁法ごと、魚種ごとに境界線や時間帯、
順番を使い分ける方式にあるというのだが…。いずれにしても、燃料高騰など漁業を取り巻く環境が厳しくなる中、
漁師たちの職場をかけた争いは容易に決着しそうにない。


